雨足が弱まらないように、先頭を走るアラフィリップ選手の脚力も勢いは変わらず、7周目に入っても一人旅は続いた。約30名の第2集団とは1分強のアドバンテージ。谷や沢田のいる第3集団とは2分半強のタイム差がついていた。
宇都宮ブリッツェンは阿部嵩之も中盤でバイクを降りることになった。幾度となくジャパンカップを走ったベテランの阿部だが「雨で周回も減ったせいか、今まで経験した中で一番速い入りだった。空いた差を埋めるのが難しいくらい速かった」と振り返る。赤いジャージで走る最後のビッグイベントを完走できなかったことに「残念な形で終わったが、まだ引退するわけではない。(沿道から)頑張れアベタカ! と声がかかってうれしかった。だからこそ声援に応えたレースがしたかったが今日は叶わなかった。次のチームでもまた出たい。それを目標に頑張りたい」と続けた。
8周目の古賀志山を越えるとアラフィリップ選手に後続が追いつき、5名の逃げに。しかし、そのすぐ背後には15名ほどがいる。9周目、3回目の山岳賞はジェームス・ノックス選手(イギリス、スーダル・クイックステップ)が獲得。トップから20番通過までが約30秒のタイム差だ。そこに国内選手は岡本隼選手(愛三工業レーシングチーム)が生き残っていた。谷、沢田は2分15秒ほど遅れた追走集団にいる。
レースも佳境に入り、残り3周に突入するとアラフィリップ選手が再び仕掛けた。スタート&フィニッシュ地点を単独で通過して観客を沸かせると、そのまま古賀志山を駆け上がる。まるでレース序盤の再現のようだったが、昨年5位のマキシム・ファン・ヒルス選手(ベルギー、ロット・デスティニー)が追いつき、山頂をトップ通過して逃げ始めるが後続も活性化。2013年の世界チャンピオン、ルイ・コスタ選手 (ポルトガル、アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)がアタックし、単騎で残り2周へ突入。アラフィリップ選手、コスタ選手と歴代の世界王者たちが宇都宮で逃げる姿は、まるで30周年記念大会を祝うかのようだ。
昨年6位のギヨーム・マルタン選手(フランス、コフィディス)、フェリックス・エンゲルハルト選手(ドイツ、チーム・ジェイコ・アルウラー)が追いつき3名になると、ついにファイナルラップに突入。後続とは1分06秒のアドバンテージがあった。最後の山頂を越え、県道に抜け、田野町交差点を左折しても3名は牽制の様子も見せずに突き進む。
残り200mを切って勝負に出たのはコスタ選手だ。元世界王者らしくスプリント勝負でも一枚上手の抜け出しで、見事に優勝をもぎ取った。ジャパンカップサイクルロードレースを制した若手選手はヨーロッパでも飛躍的に活躍することが多いが、今回は世界を制したベテランのコスタ選手による勝利。偉大な選手による優勝で30周年記念大会は幕を閉じた。
宇都宮ブリッツェンは谷が28位、沢田が39位で完走。世界トップクラスの選手たちを前に思うような戦いをすることはできなかったが、UCIポイント圏内である40位以内での完走は果たすことができた。谷と沢田はフィニッシュ時は一つでも順位をあげるためにもがき、二人でポイント獲得することができた。レースの完走者は48名。半数以上がリタイアするハードな大会となった。
なお、昨年まで宇都宮ブリッツェンのキャプテンを務めた増田成幸選手(JCL TEAM UKYO)は42位で完走している。2022年10月のJCLしおやクリテリウムで落車し、骨盤骨折の大怪我を負ったが長い入院生活を経て、シーズン半ばからレースに復帰していた。宇都宮市民にも増田選手のファンは多く、宇都宮ブリッツェンと同様に今後もジャパンカップを盛り上げてくれるであろう一人としてここに記しておきたい。
ジャパンカップサイクルロードレースの観客数は7万4000人。あいにくの天気だったが多くのファンたちが選手の躍動に胸を高鳴らせた。