▼レースレポート
クリテリウムの興奮から一夜明けた日曜日、宇都宮市森林公園でも3年ぶりとなるジャパンカップサイクルロードレースが開催された。今大会は来季より「JCL TEAM UKYO」への移籍が発表された増田成幸、同チーム監督に就任する清水裕輔監督にとって宇都宮ブリッツェンとして挑戦する最後のジャパンカップとなった。
舞台となる森林公園周回コースはスタートから間もなく標高差185mの古賀志林道のヒルクライムが始まる。つづら折りにはファンが立ち並び、目の前を通過する選手に熱い声援を送る光景は本場ヨーロッパの山岳コースのようだ。山頂を越えるとテクニカルな下り坂が待ち受け、県道に抜けるとのどかな宇都宮の風景が広がる。
手拍子に合わせてスタートが切られると選手たちは大きな拍手に包まれた。古賀志林道を越え、1周目の下りを終えた県道手前で早くも10名の逃げ集団が形成される。序盤に逃げが決まるジャパンカップの定石とも言えるレース展開だが、いつもと違うのは優勝候補の海外招聘チームから複数名送り込まれたこと。トレック・セガフレードは4名、EFエデュケーション・イージーポストは2名、バーレーン・ヴィクトリアス、ロット・スーダル、エウスカルテル・エウスカディ、チーム右京から各1名が逃げに乗った。
◾️逃げに乗れなかった宇都宮ブリッツェン。阿部嵩之と小野寺玲がメイン集団を牽引して追い上げ
宇都宮ブリッツェンは1周目後半に増田成幸が追撃の動きを見せるがメイン集団に一旦戻った。早くもサバイバルレースの様相を呈してきたが、3周目の古賀志林道で逃げの10名、後続ともに選手たちがバラけ、3周目終了時で24名ほどの新たな先頭集団が形成される。宇都宮ブリッツェンはそこに選手を送り込めなかったが、後続メイン集団の先頭を阿部嵩之と小野寺玲が懸命に引っぱり、追い上げを見せる。4周目を終えて先頭は23名、後続は1分10秒遅れだ。
先頭グループには新城幸也選手(バーレーン・ヴィクトリアス)、岡篤志選手(EFエデュケーション・イージーポスト)ら日本人選手の姿も。岡選手を中心にEFエデュケーション勢4名が先頭をコントロールする。
◾️ジャパンカップを夢見て選手になった堀孝明の逃げ
5周目終了時で50秒弱まで先頭とタイム差を縮めたメイン集団。6周目の古賀志林道を終え、下り切る頃には集団は一つに。レースが振り出しに戻ると、6周目後半に地元宇都宮出身ブリッツェンメンバーの堀孝明が動いた。ディラン・ホプキンス選手(オーストラリア、リュブリャナ・グスト・サンティック)とともに逃げを決め、6周目終了時点で16秒のリードを作った。
オープニングの選手紹介時に「ジャパンカップを夢見て選手になった。次のブリッツェンを作れるよう精一杯走りたい」と語った堀は、今シーズン体調を崩して思うような走りができなかった。だが今回の走りは、堀の復活の兆しを感じさせるものになった。山頂付近でホプキンス選手が先行するとそのまま堀との差を広げ、一人旅が始まる。堀はメイン集団に戻り、独走したホプキンスも8周目の田野町交差点前で吸収された。
◾️キャプテン増田成幸、真紅のジャージ最後のジャパンカップでファンを魅了
9周目に入り、メイン集団はトレック勢が主導権を握り、先頭でペースを作る。古賀志林道で仕掛けたのは日本屈指のヒルクライマーとしても知られるブリッツェンキャプテンの増田だ。キレのある走りで抜け出すと9周目山岳賞を獲得。山頂ではファンに手を振って声援に応える。下りで40秒の差をつけると、そのままペダルを踏み続けるワンマンショー。個人タイムトライアルもでは2度全日本選手権を制している増田は独走も得意とするところだ。
そのままスタート&フィニッシュ地点まで戻ってきた増田は、再び歓声に手を振りブリッツェンジャージ最後のジャパンカップを楽しんでいる様子。後続とのタイム差は48秒となった。10周目の古賀志林道のつづら折りでも大歓声を独り占めする増田、レース前のプランでは「序盤の逃げに乗る」予定だったが予想外の展開となり、山岳賞獲得に切り替えた。下りを終えて、県道に出たところで増田はメイン集団に吸収されるが、地元ファンは大盛り上がりだった。
◾️本場ヨーロッパ、ワールドクラスの選手による本気の戦い
11周目に入り、いよいよレースも終盤に入る。トレックなど海外招聘チームの面々が先頭でペースアップを始める。集団は次々と分断され、有力選手たちが頭一つ抜け出す形となった。日本人は新城幸也選手と、中根英登選手(EFエデュケーション・イージーポスト)が食らいついていた。そこからシモン・ゲシュケ選手(ドイツ、コフィディス)、ニールソン・パウレス選手(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト)の2名が抜け出し、協調して後続との差を18秒に広げる。宇都宮ブリッツェンは増田ですら彼らから50秒ほどのタイム差をつけられ、厳しい戦いになってしまった。
先頭2名が吸収されると後続はさらに活性化し、12周回終了時点で13名のトップ争いとなった。メイン集団との差は1分30秒ほどに広がっていた。先頭はパウレス選手が山頂をトップ通過、ジューリオ・チッコーネ選手(イタリア、トレック・セガフレード)らとしのぎを削る戦いが繰り広げられた。下りを終えて田野交差点手前でパウレス選手がアタックを決め、独走でファイナルラップに突入。
突き進むパウレス選手を追走にはライバル勢のほか、チームメイトのアンドレア・ピッコロ選手(イタリア)がいた。田野町交差点でライバルを振り切って2位に躍り出ると、EFエデュケーションのワンツーフィニッシュも見えてきた。
3年ぶりのフィニッシュラインに最初に姿を現したのはパウレス選手だ。昨年、スペインの歴史あるワンデーレース「クラシカ・サンセバスティアン」を制した彼が、今度はジャパンカップ優勝という名誉を手に入れた。間もなくピッコロ選手もやってきて、見事ワンツーフィニッシュが達成された。日本人最高位は新城幸也選手の11位。
宇都宮ブリッツェンは増田の山岳賞獲得、掘の逃げ、チーム一丸となった前半のメイン集団の牽引など見せ場を作ったが、21位の小野寺がチーム最高位となった。