▼レースレポート
蝦夷富士の異名を持つ羊蹄山を眼前に見据え、そこから吹き降ろす風に向かうように、今大会最も厳しいと言われる第2ステージがスタート。前日のハードな第1ステージではレースを降ろされる選手が続出し、プロトンは48名とかなり小さくなった。セレクションに生き残った選手たちによる、ハイレベルな戦いが予想された。
第2レースの見どころは、40.6㎞地点に出てくる新見峠(標高741m)だ。今回4名で臨んだ宇都宮ブリッツェンだが、その新見峠に入る前にできた7名の逃げに、阿部と堀の2名を送り込むことに成功。一時は集団と4分の差を開く。
第1ステージを経て、総合優勝争いとなるであろうメンバーは、ステージを取った今村駿介選手(チームブリヂストンサイクリング)を筆頭に、3秒差で増田、山本大喜選手(キナンレーシングチーム)、41秒差で松田祥位選手(チームブリヂストンサイクリング)、マルコス・ガルシア選手、トマ・ルバ選手(以上キナンレーシングチーム)、門田祐輔選手(EF エデュケーション-NIPPO ディべロップメントチーム)、フランシスコ・マンセボ選手(マトリックスパワータグ)の上位7名。ここにタイム差2分の谷順成選手(那須ブラーゼン)がからめるかどうか。このGCライダー(総合優勝を狙える選手)たちは、集団待機の形でレースは進む。
先頭の7名は、新見峠を通過したあとも逃げを容認される形で2分半ほどのアドバンテージを得る。しかし徐々に遅れる選手も出始め、堀は集団に戻る形となった。
再びレースが動き始めたのが残り70㎞。一列棒状で非常にアクティブになった集団から、10数人がブリッジを仕掛ける。実はこの動きが、今日の結果の明暗を分けることとなる。
それは自転車ロードレースにつきものの、不文律によるレースの”アヤ”だった。
集団内ではこのとき、総合上位の選手からトイレタイムというアピールがあった。増田もそれに同調してペダルを止めたが、その際に前方でアタックが掛かってしまう。「そういうときは勝負を仕掛けない」という不文律が自転車ロードレースにはあるが、それに則って集団に留まった選手、勝負が掛かっているからには前を追う選手がいて、自分がどう動くか瞬時に決断を迫られた集団は、まさにカオス状態であったという。この「不文律」は「規則」ではないのが難しいところで、増田が止まっていた宇都宮ブリッツェンとしては非常に厳しい状況に。また多くの総合上位選手も集団に留まる形となる。
チームとしては何とか前に追いつきたいし、増田の総合はUCIポイントのつく10位までには最低でも食い込みたい。増田の近くにいた小野寺、堀はもちろん、前を逃げていた阿部を戻してまで、増田のアシストに全員で徹する。
そして残り46㎞、追走の15名が追いつき先頭は19名に。この先頭に先ほど名前を挙げたGCライダーのうち、松田選手、門田選手、ルバ選手、谷選手が入っているのが勝負を難しくさせた。増田や今村選手は5名で追走をしかけるも、残り27㎞でタイム差は4分強。さらに10名が増田たちに追いつき、追走は15名となり、小野寺、山本大喜選手もここに。総合1~3位が必死で前を追うものの、先頭集団も総合争いがかかる。残り12㎞になってもタイム差は4分5秒。先頭に選手を入れてない宇都宮ブリッツェンに対し、今村選手のチームブリヂストンサイクリングと山本選手のキナンレーシングチームは、先頭に総合逆転を可能にさせる選手がいる。そこが、宇都宮ブリッツェンを苦しめた。
先頭は激しいアタックの応酬を繰り返し、最後600mのひらふ坂の直線は、息も絶え絶えの選手たちが上ってくる。その中で、最後までペースでペダルを踏み続けた那須ブラーゼンの谷選手が、後ろを気にしつつも先頭のままゴール。前日は足が攣って遅れたと言うが、驚異的な粘りがこの国際レースでの勝利をもたらした。
増田は追走集団で今村選手、山本大喜選手らとゴール。なんとか総合7位に留まることができた。
ゴール後、多くの選手がその場で倒れこむ姿が見られたほどのこの過酷なステージで、増田らの直後に入ってきたのが小野寺だ。第1ステージは久しぶりにひどい疲労に襲われたと言うし、増田のトイレタイムの間に逃げができた際は、前を追うなどの対応で相当脚を使ったのだが、ここにいたのはまさに今年のチームのスローガン「Always Evolving(常に進化する)」を、走りで見せていると言える。
明日は最終日の第3ステージ。これまでと同様、山岳を含むアップダウンの多い173㎞。レースの”アヤ”なしに、実力者たちがどのような結果を残すか。総合順位の入れ替えも予想され、宇都宮ブリッツェンの次の進化にも期待したい。