ステージレースの最終ステージは、総合の行方が大体決まっていることが多いのだが、選手たちは今日、気の抜けない朝を迎えた。
3日目、最終ステージのツール・ド・熊野(以下熊野)は、総合8位までがトップとのタイム差10秒以内という接戦で始まった。増田は総合5位でトップと6秒差だが、前後3~7位の選手が同じく6秒差で、順位は違えど5人が総合3位にいるとも言える。しかもその3位は総合2位と1秒差。つまり、今日のちょっとしたきっかけで、表彰台に乗れるか、もっと言えば総合逆転優勝さえもできるか…という、死闘必至のステージとなった。
その「ちょっとしたきっかけ」の1つが、中間スプリントポイントだ。全10周回の内、3周回目、6周回目のスタートフィニッシュラインを1~3位で通過すれば、それぞれ3秒、2秒、1秒が総合タイムから引かれる。つまり、ライバルを離した状態で増田が2位で通過したら、その時点でヴァーチャル総合2位となって、今日の表彰台だ。
コースは海沿いの周回コースで、快晴の下、気温30度まで上がる予報であったから、プライベートで訪れるには夏を先取りした気分になれそうだ。しかし選手の心は曇り空。「ジェットコースター」とも称されるレイアウトは、細かいアップダウンのあるワインディングロードで、そこを高速で駆け抜けるのだから、気持ちを緩める箇所はない。常にストレスのかかる展開となる。
先週のツアー・オブ・ジャパン(以下TOJ)から続いて、逃げに選手を送れていない宇都宮ブリッツェンは、今日は積極的に動いた。阿部が1周目から3人の逃げに。3人はほどなくつかまるが、もう一段仕掛け、阿部を含む5人の逃げが再び形成された。
「総合に関係のない選手が逃げに入れば、容認され、ステージ優勝の可能性がある」と踏んだ阿部は、思惑通り逃げに乗ったが、総合7位の松田祥位選手(チームブリヂストンサイクリング)も一緒だったためにチャンスが削られた。先にも述べた通り、松田選手は総合3位とも言える5人の内の1人だ。さすがにこれは集団も受け入れられず、1回目の中間スプリトポイントの前につかまってしまう。
ただ、宇都宮ブリッツェンとして都合が良かったのは、中間スプリントポイントを増田に取らせるために、阿部がけん引に加われることだ。しかし、なんとここで阿部がパンク。残る小野寺が必死で増田を上げたが、チームブリヂストンサイクリングの強力な列車の前に沈み、ボーナスタイム獲得には至らなかった。
だが、ここで終わらないのが今日の阿部だ。パンクから集団復帰した直後の4周回目、目の前にできた逃げに飛び乗る。その数10人。阿部に加え、門田祐輔選手(EFエデュケーション・NIPPO デヴェロップメントチーム)、フランシスコ・マンセボ・ペレス選手(スペイン、マトリックスパワータグ)、西尾憲人選手(那須ブラーゼン)、横山航太選手、中井唯晶選手(ともにシマノレーシング)、ライアン・カバナ選手(オーストラリア、ヴィクトワール広島)、入部正太朗選手(弱虫ペダルサイクリングチーム)、山田拓海選手(エカーズ)、孫崎大樹選手(スパークルおおいた)というメンバーで、阿部が望んでいた総合に影響のない選手だ。
逃げは一度容認され、周回を重ねていくが、6周回目に入るタイミングで2回目の中間スプリントポイントがやってくる。少しでも総合を確実にしたいチーム右京は徐々にペースアップを始め、一時は40秒差あったタイムギャップが20秒に。ただ追いつかなくとも、総合ライバルに秒差を縮められなければいいわけで、スタートフィニッシュラインまであと700mというところでチーム右京はペースメイクをやめ、結果、逃げは1分以上の差に一気に広がる。
レースは残り2周。多くのグランツアーでも活躍してきたマンセボ選手が上りで仕掛ける。パンクからの集団復帰に脚を使ってしまった阿部は、この動きに耐えられず逃げから脱落。
チームとしては阿部に勝利を託したいところであったが、仕事人阿部はここで終わらない。遅れて集団に戻ったところで、増田のメカトラが発生。チームとしては小野寺のゴール勝負にも力を溜めておきたいシチュエーションで、阿部がきっちりと、増田の集団復帰のアシストする。今レースも「阿部がいて良かった」と思えるシーンであった。
結局、阿部のいた逃げは勝ち逃げとなり、ロングスプリントを成功させたカバナ選手がステージ優勝。所属するヴィクトワール広島は、かつて宇都宮ブリッツェンにいた中山卓士氏が、中四国地方に初めて立ち上げたプロチームだ。今年UCI登録し、カバナ選手の新規加入があった中での、UCIレース初勝利。創設8年目の快挙に拍手を送りたい。
阿部のアシストもあり、増田はライバルたちと秒差なしの14位でゴール。総合も1つ上げて4位となったが、表彰対象の3位と1秒差という惜しい結果となった。ただ、その3位は今季飛ぶ鳥を落とす勢いの小林海選手(マトリックスパワータグ)。その1秒を覆すには、多くの戦術と力が必要であったことは否めない。ただ、チームが3人しか残れなかった状況の中での総合4位は、胸を張って宇都宮に帰れると言っていいのではないか。
次は、今年最も狙っている全日本選手権。男子エリートロードは6月26日に広島で開催される。全日本チャンピオンジャージを持ち帰るべく、また次のページがめくられる。
【第3ステージ後の監督・清水裕輔のコメント】
3人それぞれできることをやってもらった。うちだけでなく、他のチームもトラブル続出の中で、チーム同士がせめぎ合い、レース自体はとてもいいレースだった。阿部もパンクというトラブルがありながらも、ステージ優勝にトライしてくれたし、小野寺もアシストをしながらできることをやってくれ、増田もトラブルがある中で総合上位をしっかり狙ってくれた。次は今年最も重要視している全日本選手権だが、1か月しかない中で、戦えるメンバーは限られてくると思うが、そのメンバーでしっかり全日本チャンピオンを取っていきたい。
【第3ステージ後の増田成幸のコメント】
阿部が序盤からいい走りをした。途中でパンクしたのに、また前に飛びついてくれて。阿部にとっては負担が大きかったが、お陰で安心して見ていられた。さすがに阿部も遅れてしまったが、残り2周で僕も機材トラブルがあり、ちょうど阿部が下がってきたところで、集団復帰を手伝ってもらった。すごく助けられ、なんとか無事にゴールできたと言える。総合は秒差の戦いの中で、1回目の中間スプリントポイントは、小野寺が僕のことを一生懸命連れて行こうとしてくれたが、ブリヂストンの列車が強力すぎて力及ばず。やはり、このコースは苦手だった。でも今日できることはチームとしてしっかりできたと思う。少し休んで次は全日本選手権。みんなで頑張りたい。
【第3ステージ後の小野寺玲のコメント】
今日は増田さんの総合を意識しつつ、チャンスがあれば自分も阿部さんも勝負するというプランだった。なかなかハードな展開が続いていて、最初の中間スプリントポイントはもしかしたら取れるかと思い、増田さんを引き連れて挑んでみたが、結局上手くできず、ポイントを取ることは諦めた。その展開のなかで、阿部さんが逃げに乗ってくれたので、勝負は阿部さんに託すような形で進んだ。集団内では、増田さんと僕は固まっており、2人という不利な状況ではあったが、できるだけ有利な位置で、危険回避できるように集団を走った。阿部さんが逃げから遅れてしまったのは想定外で、そこからはどうすることもできず、逃げもつかまえられずという展開。今日できる限りのことはチャレンジして、この結果だったのかなと思う。全日本選手権も気合で頑張りたい。
【第3ステージ後の阿部嵩之のコメント】
振り返るといろいろあった。ひとことで言うと、とてもキツいステージだった。逃げは…、総合を狙う選手たちがお見合いをする間隙を縫って、総合に関係のない選手たちで逃げれば成功し、ステージ優勝が近づくと思っていた。1周目から行って逃げが成功し、それがつかまったときにパンクをしてしまい、集団復帰したらまた目の前で逃げができて、それに飛び乗った。そんな忙しい前半を過ごし、結局パンクから集団復帰に使った脚がダメージを受けており、マンセボ選手(マトリックスパワータグ)のペースアップについて行けなくなり、遅れてしまった。ただ、いいチャレンジができたのではないかと思う。TOJ、熊野とみなさんの応援に感謝したい。結果は残せなかったが、僕個人としてはいい感触を得ることができたので、全日本選手権に向けて、引き続きの応援をお願いしたい。
【第3ステージ 区間賞 リザルト】
1位:ライアン・カバナ選手(オーストラリア、ヴィクトワール広島) 2:33:02
2位:フランシスコ・マンセボ・ペレス選手(スペイン、マトリックスパワータグ) +0:00
3位:中井唯晶選手(シマノレーシング) +0:00
14位:増田成幸 +0:07
17位:小野寺玲 +0:07
45位:阿部嵩之 +4:57
【第3ステージ終了後 個人総合時間賞 リザルト】
1位:ネイサン・アール(オーストラリア、チーム右京) 7:43:09
2位:松田祥位(チームブリヂストンサイクリング) +0:04
3位:小林海(マトリックスパワータグ) +0:06
4位:増田成幸 +0:07
19位:小野寺玲 +2:37
39位:阿部嵩之 +12:36
【第3ステージ終了後 団体総合時間賞 リザルト】
1位:マトリックスパワータグ 23:09:45
2位:チーム右京 +1:38
3位:キナンレーシングチーム +1:55
8位:宇都宮ブリッツェン +15:04
【第3ステージ終了後 リーダージャージ】
個人総合時間賞 ネイサン・アール(オーストラリア、チーム右京)
ポイント賞 ライアン・カバナ選手(オーストラリア、ヴィクトワール広島)
山岳賞 山本大喜 (キナンレーシングチーム)
新人賞 山田拓海選手(エカーズ)
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